2026.1_テクノロジー全史
「テクノロジー全史」関連のレポート・補足資料
礒津 政明さん 著『父が娘と語り尽くす 深く、わかりやすく、とんでもなく熱い テクノロジー全史』(実務教育出版)挿絵アートワーク制作忘備録
概要
礒津政明さん 著『父が娘と語り尽くす 深く、わかりやすく、とんでもなく熱い テクノロジー全史(以下 テクノロジー全史)』挿絵制作、構想から制作、仕上げまでの記録。
1. SONYがテクノロジーを教えてくれた
2025年の2月、実務教育出版の小谷俊介さんから1通の依頼メールが届きました。
依頼内容は、書籍の挿絵制作。ソニーグループのトップソフトウェアエンジニアが、実在する自身の高校生の娘との対話形式で描く、石器からAIまでのテクノロジー(科学技術)の過去・現在・未来の移り変わりと予測を描いた本のプロジェクトでした。
著者の礒津政明(いそづ・まさあき)さんはソニー・グローバルエデュケーション会長(2025年2月時点)。2015年の同社設立時より社長を務め、2022年から会長に就任。ロボット・プログラミング学習キット「KOOV」の開発や、文科省の有識者会議で「プログラミング的思考」を提唱するなど、STEAM教育の普及を牽引される、まさにソニーグループのトップソフトウェアエンジニアです。
何を隠そう僕は幼少期からSONYの大ファン。ウォークマン、ヘッドホン、ネットワークオーディオ、携帯電話などなど愛用したプロダクトは数え切れず、SONYデザインがなければ音楽にハマることもなかったでしょう。「SONY製品の音」も聴き分けられるほど、人格形成のかなり深いところで強い影響を受けました。
プロダクトデザイナーに憧れて多摩美に入学したら、安次富先生に出会いました。安次富先生もSONYのご出身。在学中にいろんなことを教わり、結果としてSONYは諦めましたが、「デジタル」と「アナログ」の違いのお話に感銘を受けて、今モノクロでシロとメロの絵を描いているので…根っこの部分でずっとSONYと繋がっている感覚が(錯覚かもしれませんが)、今もあります。そんな私でしたから、二つ返事で引き受けました。
2.冒険の書をめざして
磯津さんが自分に興味を持ってくださったきっかけは、孫泰蔵さん著「冒険の書」(日経BP)でした。冒険の書は、日本の学校教育に疑問を抱いた著者の泰蔵さんが、その歴史を紐解き、娘である”主人公”に託すという物語。僕は歴史上の偉人の肖像とまんがのキャラクター、さらにロック音楽の歴史をマッシュアップした挿絵を描きました。
教育というテーマが自分にとって熱いテーマであったと同時に、大切な友人からの紹介ということもあり、これは何か試されているお仕事だなと感じて、めいっぱい新しい挑戦を盛り込んで、これ以上ない絵を描けたと自負しているお仕事でした。
でも、新しい挿絵を描くってことは、冒険の書を超えなきゃいけないのか〜…、ということで、ひとつだけ、冒険の書では諦めたテーマに挑戦しました。
3.POSCAで描いたらどうなるか
僕はモノクロ絵を描くならPOSCAが一番いいと思っています。なぜなら難しいからです。インクは途切れるし、飛び散るし、修正がきかない、下書きはしない、失敗したら最初から描き直す。でもその緊張感があるからいい絵が描けます。
基本的に仕事でPOSCAは使いません。締め切りに間に合わず、迷惑をかけることになるので。…そう思っていままで封印してきましたが、いい機会だからやってみようと考えました。
4.古代のリアルはわからない
最初の1枚を描いてみてゾッとしました。
服装は?体格は?ヒゲはどうやって整えた?人数は?薪のかたちは?肉のかたちは?寝床は?背景は?こんな開けた場所にいたら、獣に狙われないか?子供達にテクノロジーの歴史を伝えるための本で、イラストが嘘だらけじゃ話にならないのでは??
とはいえ現実を確認するのは不可能、ならせめて最新の研究に基づいた絵にしたい…。そう思って図書館に行きました…しかし、「最新」を特定するのは不可能でした。これは大学とかに行って研究者に聞かないとわからなくないか…?
ChatGPTでも検索してみました。試しに「最新の研究に基づいたイメージの作成」も試みました。しかしどこまでが事実でどこからが生成(ウソ)かは判別不可能で、そもそも1万年以上前の事実は確認できないという現実に直面しました。
5.情報 + ファンタジー = イラスト
その後、友人がPerplexityを紹介してくれました。検索に特化したAIであり、おかげでかなり信ぴょう性の高い情報を参照することができました。
同時に、絵は絵なので、デフォルメが必要であり、事実確認がとれている部分”以外”は、人間である僕自身がイマジネーションを働かせ、ファンタジーを織り交ぜて絵を作る必要があるのだと理解しました。
このような思考の過程から、絵のタッチとデフォルメ感が決まっていきました。キャラクターや背景をデフォルメすることで、重要な部分を強調し、それ以外は描かず、かつ絵として見やすく、安定した構図をつくることを意識しました。
写真や写実的絵画が発明される前の時代のイラストは、以上のようなプロセスで制作しました。できる限り丁寧な作業を心がけましたが、至らない部分があれば、ぜひ情報をお寄せ頂けたらと思います。イラストレーターとしてもっと勉強しなくてはと痛感しました。
6.そして近代へ
写真や映像の残っている近現代のカットに関しては、比較的リサーチ作業は軽減されたものの、当時の雰囲気やテクノロジーを理解する上で重要なポイントが一目で伝わるように、構成を試行錯誤しながら描きました。また、資料が残っているだけに、なるべく実物の印象を損なわないよう丁寧に描きました。下絵を清書する段階で、かなり大きく構図を調整しながら、粗密のバランスをとるのに苦戦しました。
7.実態のないテクノロジーを想像力で描く
現代は、GPSやAI、ブロックチェーンなど、情報技術を中心とした実体のないテクノロジーの概念を表すカットの制作に苦戦しました。テクノロジーの仕組みを理解していないと描けないため、磯津さんに直接アドバイスを頂きながら制作を進めました。
8.未来のイメージを、なるべく柔らかく
ロボティクス、人工知能、医療技術などなど、人は未知のものに対して不安を抱きやすいものだと思います。この本のなかでは、未来のテクノロジーをなるべくポジティブに、明るく、親しみやすいものとして描きたいと考えました。
POSCAで描く柔らかなニュアンスの線と、余白の多いすっきりとしたイラストの印象が、ここでより効果を発揮できたと思います。
実は未来のテクノロジーを詳しく理解するために、ここでも一部でAI生成の力を借りました。磯津さんが資料として生成してくださった画像(下図、右上:ChatGPTに原稿を入力して生成した画像 / 右下:Geminiに原稿を入力して生成した画像。)を参考に描いたのが左下のカットです。自分としては要素を削ぎ落としながら、絵の面白さにこだわって描きました。
生成AIを活用することは今でも是非の判断が難しいところですが、テクノロジーをテーマにした本でテクノロジーと正面から向き合い、時に悩み、時に励まされて過ごした1年間でした。
物語の終盤になるにつれて、扱うテーマが政治や地球環境など、ともするとシリアスになりがちな内容なのですが、本文を執筆された教育ライター佐藤 智さんが描いた、父と娘の小気味のいい会話のキャッチボールが素晴らしく、佐藤さんのテキストのおかげでイラストもいっそう丸く、かわいくなっていきました。
9.まとめ
ここまで振り返って、まず「いい絵がたくさん描けてよかった〜」としみじみ感じていますが、実はカット数としては、これで半分くらいです。
このあとに、まだまだ未来編のいろいろや、偉人図鑑が収録されており、まさに「テクノロジー全史」を網羅した一冊となっています。
テクノロジーの進化は加速し続けていますが、ときに振り返って現在位置を把握することも必要かなというか、自分にとっては豊かな時間でした。ぜひ中学、高校生のみなさんへ、社会のこれまでとこれからに思いを巡らすきっかけにして頂けたらいいなと思います。
みんなも読んでみて✨
https://books.jitsumu.co.jp/book/b663960.htmlおまけ.キャラクターデザイン
