2026.1_ウインド・ソング
ラブリーサマーちゃんの楽曲「ウインド・ソング」のアートワーク制作。モノクロの線画で音楽の世界観を表現。
「ウインド・ソング」- ラブリーサマーちゃん アートワーク制作忘備録
概要
ラブリーサマーちゃん「ウインド・ソング」のアートワーク制作について、着想から装置制作、撮影、仕上げまでの記録。
1. TOKYO INTERNET LOVE から10年
僕はラブリーサマーちゃんの「わたしのうた」を創作活動のテーマソングのひとつにしています。この曲は鈴木健太監督の「TOKYO INTERNET LOVE」の主題歌として2016年に公開された曲でもあり、2000年代インターネットの空気感を見事にビジュアル化したこの映画は、人生で最も大切にしたい映画です。
「ウインド・ソング」を初めて聴いた時、「わたしのうた」と、「TOKYO INTERNET LOVE」の、その先を見ている感じがしました。あれから10年が経ち、創作の場としての”インターネット”は様変わりし、僕も大人になりました。ネット仲間との交流も途絶え、今となっては絵を描く理由も正直よくわからない。けれど、今続けていることは、無駄ではないよねと言われた気がしました。
「僕らの息がまだ熱を持ってるとして、それはね、弱くても風」
今までなにかを作ってきた人、これから何かを作ろうとしている人へ。今は小さくても、時を経て大きな風となり、誰かの背中を押すだろう。そんなラブサマちゃんの思いを受け取りました。
2. エアポート音楽会での邂逅
2025年の年末に、新千歳空港国際アニメーション映画祭に併設された音楽イベントで、ライブアニメーション(VJ)を担当しました。10年来のネッ友であるラブリーサマーちゃんと空港で初対面し、緊張と感慨のなか熱いライブを繰り広げました。
ウインド・ソングのアートワーク制作依頼は、そのライブの直後でした。空港のカフェで目を閉じて、デモ音源を聴きながら、具体的な風景ではなく、抽象的なイラストでもない、新しい表現が必要だなと感じました。紙にペンで絵を描くのではなく、何か別のアプローチが合う気がしました。
その日の晩、夜中にふと目が覚めて覗いたSNSで、ピンスクリーンの存在を知りました。Pierre-luc GRANJON氏の「The Night Boots 」を紹介した映画祭の投稿でした。(受賞おめでとうございます!Félicitations!)
3. ピンスクリーンアニメーションから着想を得たアートワーク装置の制作
装置の構成
ウインド・ソングのカバーアート制作にあたり、直径0.55mmの穴が1.1mmピッチで空いた2枚のアルミパンチングメタルで、フェルトを挟み、太さ0.5mmの虫ピンを4000本ほど突き刺して固定し、ピンスクリーンを模した装置を作成しました。
参考にした技法
制作にあたり、ロシア出身の映像作家アレクサンドル・アレクセイエフ(Alexandre Alexeïeff)と妻のクレア・パーカー(Claire Parker)が1930年代に発明したアニメーション技法・道具である「ピンスクリーン(Pinscreen)」を参考にしました。
※ピンスクリーンは、ピンの凹凸による陰影で映像を作り出す技法であり、ピンの両端が針であるのに対し、今回作成した装置では、虫ピンを採用した関係で片面は球状になっています。
4. アートワーク制作プロセス
4-1)ピンスクリーン造形
指先や身近な素材を用いて立体造形を行いました。ピンを動かして形をつくる単純な作業ですが、滑らかなカーブを出したり、前髪や目鼻などの起伏を出すのには繊細な作業が必要で、大半の部分はapple pencilを用いてピンを1本ずつ微調整しました。
ピンスクリーンはその構造上、表現できる解像度や形状に制限がありますが、立体に起伏したピンに照明を当てて撮影するため、陰影の作り方によって無限のバリエーションが展開できました。
4-2)撮影
また、カメラにクロスフィルターを装着することで、ハイライトを星形にして撮影しました。造形から撮影までに表現の可能性が分岐できるところに面白さを感じました。
https://www.kenko-tokina.co.jp/imaging/filter/cross/twinklestar8x.html
4-3)モックアップ作成
撮影した写真を用いて、デジタル配信ジャケットとして表示された状態を再現したモックアップを作成しました。人形を模した全体のイメージと、星形の光の形状がどちらも認知できるアングルを検証しました。
4-4)仕上げ・描画
アングル検証の結果、画像左のアングルが最適と判断しました。しかし、立体感、抑揚感のレタッチの必要性を感じ、最終的には画像右の通り、すべての形状を手書きで書き起こして完成させました。
初見では、人物の顔を正面から描いたイメージと捉える人が大多数だと思いますが、前髪の部分を雲、口より下の部分を「丘の上に立つ一本の木」と見ることもできると考え、レタッチ過程では、さまざまな大きさ、さまざまな角度から眺めた際に、それぞれ異なる見え方のグラフィックとして成立するように調整しました。
4-5)映像化
SpotifyのCanvas機能、Apple Musicのモーションアートワークに対応するため、少しだけ星が拡大縮小するアニメーションを制作しました。1秒8コマ、計22枚でループします。
5. おわりに
自分がまだTEACのデザイナーで、シロとメロのイラストを描き始めたばかりの頃のこと。社用車を運転中、ラジオからラブリーサマーちゃんの歌が流れてきました。「お父さんに買ってもらったMTRで作曲をはじめたピチピチロックギャル」が、隣で弾き語りしているような、ずっと前から知っているような、不思議な親近感を覚えました。
その後もネットを通じて、彼女の活躍を意識しない日はありませんでした。イラストレーターとして交流のあった、てらおかなつみさんがアートワークを描いていたり、スズケンくんがMVを作っていたり。(絵を描くために装置をつくるという発想は彼の影響が大きいのかも。)
「僕も絵を描いて、彼らのように自由に表現したい」と願っていました。夜な夜なラブサマちゃんのサウンドクラウドを聴きながら、絵を描きました。僕は音楽が好きだから、絵描きとして、いつの日かミュージシャンの力になれたら、、そんな思いを、あれから12年、ずっと抱えて生きてきました。
今回こうしてラブリーサマーちゃんからオファーをいただき、ウインド・ソングの制作に参加できたことを、心から嬉しく思います。この日がくることを願って生きてきたよ、とラブサマちゃんに伝えたら、やさしくハグしてくれました。ここまで支えてくれたファンの皆様や、ものづくりに携わり、一緒に働く仲間たちに、敬意と感謝を伝えたいです。そしてラブサマちゃんへ、最高の作品をありがとう。リリースおめでとうございます!
