第 0 章 オーリス
ORIS とは、僕らが音楽を生み出すきっかけになっているものです。絵を描くきっかけになっているもの。言葉を編み出すきっかけになっているものです。 誰かに接触し、自分の中に湧き上がる激情を伝えたいと願う気持ちそのものです。ORIS のアイデアは、僕がイラスト活動を休止した 3 日後の明け方、 ある幸せな夢を見た直後に生まれました。その日の僕は 3 年間育ててきたシロとメロというキャラクターと、彼らが引き寄せてくれた大勢の人たちに、 別れを告げなくてはならない喪失感と寂しさと不安で胸がいっぱいでした。夢の中で、僕は今まで出会った友達と食卓を囲んでいました。突然灯り が消えて、そのうちの誰かの誕生祝いが始まりました。弾き語りの音楽家が現れて、歌をうたいました。お祝いが終わって、僕はその人に話しかけ ました。お互いの作品のことを語り合って、ああ、この感じはイラスト活動をしている頃、いろんな作家さんと出会って、こういう話をたくさんできて、 幸せだったなと、感慨深くなって、「あ~僕、ほんとに音楽が大好きです」と言おうとしたところでハッと夢が覚めました。そしてふと、自分がこんな に音楽を好きなのは、何か自分以外の、もしかしたら寄生虫のように、自分に取り付いている何かに、そう感じさせられているだけなんじゃないか と感じました。そうだとしたら今までモヤモヤと疑問に思っていた事が全部解決するって。例えばこの地球上で人間だけが他の生き物よりも明らか に異質なのは何故なのだろうとか、人が作ったものや大衆の歓声に、思わず涙してしまうのは何故なのかとか。そうして漠然とイメージした、地球 外からやってきて、僕の中にいる未知のものに、ORIS という名前をつけました。絵を描くにしろ、物語を作るにしろ、根幹のテーマがとても重要です。 イラスト活動では、シロとメロが人を惹きよせ、また、人々の中にそれぞれのシロとメロ像を構築していく力を持っていました。おかげで僕は自由な グラフィック表現を模索できたし、とても楽しかった。ただし、根幹のテーマは簡単に書き換えることができません。シロとメロはどうしてもかわいい。 かわいいの謎を解き明かすために生まれたキャラクターだったから。今、僕はかわいいの世界から離れて、僕らがものをつくる時、音楽を聴いたり 作品を見て感動する時の、感覚の働きについて見ていきたいと思っています。
ORIS は目に見えません。見えないものを描くことが本制作の重要なテーマです。例えば「1,2,○,4」と書いたとき、そこには存在しなかった「3」 が脳裏に浮かびます。林檎をデッサンするときも、テーブルに落ちる影の形を描くことで、正面からは見えない林檎の裏側を描き、林檎が立体物 であることを描きます。同じように、目には見えない ORIS と、その他の物事との関係を描いていくことで、ORIS そのものの形を描き出すことが、 できるんじゃないかと思っています。人がなぜ感動するのかとか、人間がどうとかってことは簡単に語れるようなテーマではないと思うのですが、そ の根幹に ORIS というキャラクターを据えることで、僕だけじゃない、いろんな絵描きや音楽家と一緒に考える、もっと言えば鑑賞者も一緒になって、 それぞれの解釈を自由に描いて欲しい、ORIS はその中間で、接着剤のような役割を果たしてくれることを期待しています。だから僕は最低限の情 報しか設定していない。常に ORIS という漠然としたアイデアの手前にはあなたや僕の日常があって、ORIS の遥か先には僕らが作り出すべき未来 のイメージがある。いまあなたが座っている場所、あなたの目に見えているものから、限りなく遠くまで意識を飛ばして、あなたが画面の 1 ピクセル よりちっぽけで見えなくなってしまうくらい遠い場所からようやく見える遥か先の未来に見えたものを、ORIS の物語に乗せて欲しいのです。
第 1 章 オーリスとの遭遇(4千万年前 ~ 現代 ~ 1 万年後 )
ORIS(オーリス)という言葉を聞いたことがありますか。ORIS とはまだ人間が猿だった時代、宇宙から地球に飛来して、あらゆる生物に寄生した
情報組織体の名前です。生物は目や耳で受けた情報を脳に伝えるために、刺激を電気信号に変換します。ORIS はその電気信号と” 共振” するこ
とで増殖します。ORIS 自身だけでは増殖することができないため、感覚器を持つ生物に寄生することで ORIS は生存しています。誰もが 1 度は音
楽を聴いて感動したことがあると思います。音楽を聴いて心地よくなったり、楽しくなったりすること、不思議に思ったことはありませんか。私たち
人類が私たちの種を守るために、音楽を聴いて感動するという機能が本当に必要なのだろうかと。音楽に限らず、絵画、彫刻、料理、ダンスなど
の芸術を、なぜ地球生物の中で、人類だけが必要とするのでしょうか。実はここに ORIS の存在が深く関係しています。美しい旋律や、心の琴線
に触れる刺激は ORIS との共振を促し、脳内に膨大な量の ORIS が発生します。ORIS に寄生された生物はこれを快感と錯覚し、さらなる快感を求
めて新しい刺激を生み出します。ORIS と人類が出会う前、人間が猿だった頃、僕らも他の生物と同様に子を産み、種を保存することが生きる目的 でした。しかし ORIS と共生した人類は音楽を生み出し、言葉を生み出し、人間へと進化していきました。楽器を生み出し、文字を生み出し、文明 を築きました。今、地球には多種多様な音楽が溢れています、人の創造のあるところに ORIS があり、ORIS の増殖により人はまた新しい音楽を生 み出す。音楽は人から人へと伝播して、地球を巨大な膜のように覆っていくのです。
第 2 章 オーリスの離脱( 1 千万年後 ~ 6 千万年後 )
電気は宇宙に存在する自然現象の一つですが、人間は電気を作り出し、コントロールし、利用することで文明を発達させてきたと言えるでしょう。 例えば音楽を演奏したり、再生するのにも電気を使います。電気を使って動く楽器もたくさん生まれました。コンピューターを使って音楽を作る人 も増えました。音楽に限らず生活のあらゆる場面で、人間にとって電気は必要不可欠です。さて、ORIS がなぜ人間に寄生していたかと言うと、こ れも電気が関係しています。ORIS は生物の感覚器で発生する電気信号と共振しなければ、その存在を保つことができません。自然界に散在する 電気は、ORIS が形状を保つにはあまりに不安定であり、生物の感覚器官で発生するくらいの微細で安定した電気を必要としていたのです。しか し今、地球には人間が作り出した安定した電気が溢れています。これまで人間や一部の生物だけを拠り所としていた ORIS は次第に生物から離れ、 外にある電気を媒介に増殖し始めます。ORIS はもともと形を持たず、増殖することだけを目的とした情報組織でしたから、寄生の対象が変わった ところで外見上の変化が起こることはないし、ORIS 自体、高いところにあった水が低いところに集まるように、その拠り所を移すことは必然でした。 体内から ORIS が減少した人間には、少しずつ変化が現れ始めます。ORIS が減ると感覚器が刺激を受けても快感を得にくくなります。新しい刺 激を求めなくなり、音楽をやめてしまう。ただし、ORIS の数は減ったものの、完全にいなくなるわけではありません。これまで地球生物の中では 人間の中でのみ、過剰に増え続けてきた ORIS の値が、犬や猿のそれと同等くらいに減少します。こうして人間は進化のスピードを落とし、人間中 心の生命感を捨て、地球上の他の生物と対等に共生できる温和な生き物になっていきます。
第3章 あたらしい大地( 7 千万年後 ~ 1 億 2 千万年後 )
これまで地球上の大部分の ORIS は人間に寄生していましたが、大きく 2 手に分かれていきます。一方は、今まで通り生き物、有機物に寄生する ORIS-A。地球上の ORIS は、徐々に人間から離れ、他の生物や植物へ。すると、かつて猿が人間へと進化したように、他の動植物が進化をはじめます。 彼らもまた、ORIS-A に触発されてコミュニケーションを発達させ、数千年をかけて姿形を変え、音楽を生み出し、新しい文化を築き上げます。 ORIS-A によって作り変えられていく新たな地球生態系は恐竜、人類に次ぐ第三形態を形成します。もう一方で、人間から離れ、人工の電気と融 合した ORIS-B は、これまでの ORIS とは異なり、無機物に寄生する性質を持ちました。人工の電気は非常に強いエネルギーを持ちながらも安定 しているため、ORIS-B はそれ単体でエネルギーを生成できるようになりました。そして、空気、水、鉱物などの無機物に寄生し、無機物の変質 を促し始めました。もともと無機物は繁殖活動をしません。しかし ORIS-B が寄生した無機物は、繁殖活動を行います。他種と交配し、次々と新 種が生まれていきます。例えばダイヤモンドと水のハーフとか、ガラスと空気のハーフとか。すると地形も変わってきます。大地も海も変化のスピー ドを速め、地下に眠っていた鉱物が急成長して地表へ飛び出したり、海が結晶化して生物の生態系にも変化を及ぼして行きます。こうして地球は 生物だけでなく、植物、無機物、あらゆるものが互いに共振を始め、大きなうねりの波となって地球を動かし始めます。 世界は乾いていた。新しい大地はあらゆるものを吸い込んで、猛烈な熱気を吐き出していた。生命は輝きに溢れていた、進化の喜びに自分のかた ちを忘れてしまうくらいに、すべてのものがかき鳴らすエネルギーは響き合って大きな音楽になった。
第4章 オーリスの衝突( 1 億 3 千万年後 ~ 1 億 8千万年後 )
さて人間はどうなったかというと彼らもまたうねりのなかにいる。地球生命のひとつとして世界と調和しながら進化の砂漠を泳いでいる。ずっとこの
まま溶け合っていられたら本当に素晴らしいね。それから 2 千万年ほど経過した頃、地球環境は崩壊の危機に直面していました。ORIS-A と
ORIS-B は互いに相容れない存在でした。それどころか、後発勢力ながら猛烈なスピードで増殖し、地球上のあらゆる無機物に寄生していった
ORIS-B は、次第にその力を持て余すようになり、温厚で無害な ORIS-A の存在を脅かし始めました。ORIS-B の寄生によって進化した無機物は
胎動するように、頻繁に移動と爆発を繰り返しました。大地はひび割れ、金切り音を上げて吹き出した鋼鉄の岩脈が地上生物の生息地を根こそぎ
吹き飛ばし、鋭利にそびえ立って奇妙な唸り声をかき鳴らしました。ORIS-A は生物たちと逃げ惑いながらも、過酷な環境に順応するように、ある者は強靭に、ある者は柔軟に、ある者は賢い存在へと進化していきました。ORIS-B の暴走により地球が壊滅に陥りかけた頃、暴走を食い止める存在が姿を現します。それらは体内に ORIS-B の寄生した無機物を取り込み、自らに寄生した ORIS-A と共振させることで ORIS-B の過剰な発振 を抑え、安定化させる力を持っていました。それは山脈を飲み込むほど巨大な生物で、山々を耕して再び生物が生息できる環境を作って行きました。 こうして生態系は蘇り、世界は豊かさを取り戻して行きました。もとをたどれば、ORIS-B の過剰な発振はかつて人間の作り出した電気に寄生して しまったことに起因しています。人工の電気は安定していましたが、微弱なノイズが混じっており、それがいつの間にか増幅され、ORIS-B へと進化し、 地球環境を崩壊させてしまいました。それを食い止めたのは、進化した生物と ORIS-A だったけれど、地球からしたらいい迷惑でした。でもまあ進 化ってそういうものだと思うのです。
第5章 オーリスの増殖( 1 億 9 千万年後 ~ 2 億年後 )
衝突による混乱がおさまり、世界に安定が訪れます。かつて反発し合った ORIS-A、ORIS-B も互いを許容し、ふたたび同化していきました。する と有機物と無機物も混ざり合って、植物と機械を足して 2 で割ったようなやつもたくさん生まれました。進化は速度を緩め、生態系は次第に新しい かたちを定めていきました。地球上の新しい生息者たち ( かつて動物や植物、石や水や空気だったもの ) たちはそれぞれが全く新しい種、新しい形 になって定着し、繁栄を始めました。文化的な活動も活発になり、それぞれの種が新しい音楽や芸術、道具、メッセージや関係を生み出し始めます。 都市のようなもの、文明のようなものも少しずつ形成されてゆきます。ここまでの章とは異なり、それぞれの” 種” がはっきりと分かれていることです。 それでいながら、異種間のコミュニケーションも活発に行われていました。まるでセッションのように、ORIS は自由奔放に種から種へと飛び移り、 地球生物を繁栄させました。
生命のダンス。世界は陽気だった。光と喜びに満ちあふれていた。地球に住み着いてから増殖と進化を繰り返し 6 億年の時を過ごした ORIS。か つては脆く微弱な存在でしたが、この地球を住処とし知識を蓄えることで計り知れないほど巨大な情報組織となっていました。生物が齢を重ねるほ ど知性的になっていくように、ORIS もまた成熟していたのです。
第 6 章 2 億年後、かつて人類だったもの
それからまた、長い長い時間が過ぎて ORIS はずいぶん大人しくなりました。世界は静寂に包まれて、どこからか時折聞こえてくる音楽はむしろ空 虚感を手助けしていました。生命の日が暮れ、あたりは薄暗くなりました。生き物も、進化した無機物も皆、眠りの支度をしている。そんな世界が やってしました。かつて巨大だった無機物や、浄化作用を備えた生き物は、今では皆、砂つぶほど小さくなって、海岸の砂浜の、小さな小さな美し い貝殻が身を寄せ合うみたいに、意識の果てまで続くような広大な砂漠となって、ちいさく息をしています。なぜちいさくなったのかというと、ある 時いろんなものが大きくなりすぎて、地球という限られた空間の中では収まりがつかなくなってしまった。それで生息者たちはどうしたかというと、 争うのではなく、自分たちが小さくなることで、共存する道を選んだのです。あなたの手で砂漠をひとすくいして、ルーペで覗けば、そこには数多 の生態系が息づいている。耳をすませば、彼らの文明が奏でる音楽も聞こえてきます。それは本当にごくごく小さな世界の音。さて、ここで人間の こと思い出してみたいと思います。人間が人間だった時から数えて 2 億年も経っていますから、もう人間のかたちを留めているのかすらわからない、 と言うかもう留めてないのでしょう、でも、かつて人間だったものは 2 億年経った今も確かに存在しています。2 億年後のかつて人間だった生き物は、 今、ORIS や、地球の住人たちとどのような関係を築いているのか。( うまくやっているかな?) 彼らは一体どんな音楽を奏でているのでしょうか。 訪れる長い長い夜に飲み込まれる前に、少しだけ音楽をきかせて。
第7章 オーリスの楽園
ORIS はいままでいつも元気で、ある意味「無」みたいなサラリとした存在でしたがここで消えます。章 1~7 へと進むにつれ人間でいうところの 70 歳くらいになっています今。ORIS はもともと情報のあつまりでした、単体だと脆く壊れやすいので集まって組織として構造をもつことで生存してい ました。それが 2 億年かけてものすごい複雑で巨大になって、あるとき散開します。それで地球はまっさらな状態に戻ります。おそらくそれから何十 億年もまっさらでなにもない。宇宙の他の惑星と同じように。ORIS の死後の世界、ORIS の意識から解放された地球はただただ美しく、粉みたい に小さくなった生き物と、地球の静寂は、永遠にそのままでい続けるんだと思います。何のこっちゃ どんなにがんばっても、絶対に叶えることができないんだけど、夢がひとつだけあって、その夢を叶えるためなら何と引き換えにでもできる、死んだ っていい、っていったってぜったいに叶えることはできないんだけどいまこうして目をとじれば見える。楽園とか天国というのは、そういう生きている 限り絶対に叶えることができない夢を叶えるための、最後の扉を抜けた先にある世界なのではないかと思います。
第 8 章 人間について
ORIS の物語で、僕たち人間が人間らしい姿で登場するのは第 1 章と第 2 章のはじめくらいで、あとは環境の変化とともに姿形を変えていきます。 だから ORIS の物語は全体的にすごく「人間臭さ」が希薄で、そうやって自分たちから遠く離れた世界に思いを巡らせることで、未来を旅するコン パスの重要な部品が生まれる気がしています。この章では人間を人間たらしめているものについて考えます。それは愛でしょうか、想像力でしょうか、社会でしょうか。人間を人間たらしめているものは人間なのかもしれません。人間であるためのいくつもの鎖が、複雑に絡み合って僕たちが人間で あることを支えています。僕らは時に鎖から抜け出して新たな存在になろうとする。走っているうち、外界に晒された素肌は傷を負い、開いた傷口 を新たな鎖が塞ぎます。そして気づいた時には「もといた場所」に繋がっている。その辺に人間の本質がある気がします。そうやってすべての生き 物や事象は進化を求める背反に種の保存という使命を背負っています。では例えば、この世界から僕以外の人間が 1 つもいなくなったら、「もとい た場所」そのものが無くなってしまったら、僕はもう人間でいる必要がない。かといって何か別の種類のものになれるのかというとそれも難しい。な らば変身するしかない。本当の孤独になったとき、生物は全く新しい存在に変わるのではないかと思います。ORIS の物語では、2 億年かけて人間 が人間でないものに変身します。( 僕らが猿でなくなったように ) その過程で 7 度、かつて人間だったものを繋いでいた鎖が断ち切れて全く別の存 在へと変身する瞬間が訪れます。7 回の変身を遂げて、人間は全く別の存在になりました、ただしそこに「かつて人間だった」という事実だけは脈々 と通い続け、消すことができません。この事実は変身を繰り返してきた身体性とは切り離された次元にあります。
第 9 章 死について
僕たちの体の中で、僕たちの細胞は生成され続け、古い細胞から順に死んで排泄されていきます。そうすることで体はつねに新しく、健康に保たれ ています。人間が生まれ、子供を産んで、最後に「死ぬ」というサイクルも同様に、人類全体、地球全体の健康を維持するために必要な機能です。 しかし、僕たちは死を恐れます。死ぬのは怖いし、苦痛を伴う。僕たちは死と戦い、死を克服しようと試みます。それはなぜか。それは進化のためです。 死を受け入れることで、種の健康は保たれますが、死から逃れることで、種は進化を遂げるという、背反の関係があります。例えば僕が今、やば いウィルスに侵されてしまったら、僕がすぐに死ねば、種全体に及ぼす被害は最小限に止めることができます。死に抗ってウイルスと戦い、生き永 らえている間に、他の人間にウィルスを感染させてしまったら、種全体の健康を脅かします。しかしそれでも頑張ってウィルスと戦い続けたら、体内 でウィルスに勝つ抗体を生み出すことができました。これは進化です。生き物がなぜ進化しなくてはならないかというと、刻々と変化する地球環境に 対応しなくてはならないからです。なぜ対応しなくてはならないかというと、種を保存しなくてはならないから。なぜ種を保存しなくてはならないか というと、なぜ宇宙が存在しなくてはならないのか、なぜ宇宙空間でボールが進み続けるのか、というところと並列にある、「存在したものは存在 を続けようとする」というところにいきます。これがこの宇宙のあらゆる問いの解なのです。死んだ後どうなるの ? という問いがあります。答えは、 無機物になります。目には見えにくくなりますが、この宇宙には質量とエネルギーの等価性があるので、大気中なり、土や水の中や運動・熱・光・ 電磁気に変化して、消えることができません。では、意識や心はどうでしょうか。意識や心は有機物によって構成されていますから、体内の有機物 質が活動停止すると同時に、意識や心は消えてしまうのかなと思います。でももしかしたら、有機物が燃えたり溶けたりして、無機物に変わってし まっても、意識や心の断片は分解されずに残るのかもしれません。ガスや水に変わって地球を循環し、植物の一部となり、生物に取り込まれ、新 たな生命の一部となって意識や心を構成するのかもしれません。
第 10 章 円環の外側にあるもの
ORIS のことを描いていたら、すごく遠いところまで、流れ着いてしまいました。はじめは自分の身体の中にいる、音楽をきくと喜ぶだけの、すごく 身近な存在だったのですが、今や自分の存在や、生き物の定義すらつけられないほど、遥か遠くの未来へ迷い込んでしまいました。28 年間生きてきて、 こんな未来に思いを巡らせたことはありませんでした。こうしていろんな人に、ORIS をテーマに作品を作ってもらって、( ありがとうございます !)CD をつくって、漫画を描いて、そういうのを何回か繰り返しながら、ゆくゆくは映画にしようと思っています。さて、こうしてみんなで作った作品を CD にすることで、この 2 億年という気の遠くなるほど膨大な時間や宇宙の物語が手のひらサイズの円盤に変身します (!) 僕たちはまたそれを俯瞰して 新しいもの作ろって思います。作ってもらえたらいいなと願っています。でもそれって何!? 僕らの想像はどこまで遠くに行くんだろうって思いませんか。 自分の位置からみると超巨大なものが、視点をすっ飛ばすと超コンパクトに見れちゃうこと。ドーナツ状にぐるぐるまわっている ORIS の物語を縦に 切った断面だとか、水平に切った断面だとか、サーフェスの形状だとか、質量だとか、大きさだとか、そういうのを内と外の両方から観察する面白 さと常に隣り合わせにいることをわすれない。
第 11 章 オーリスは宇宙をただよう
地球での ORIS の物語に幕が降りる頃、宇宙のどこか、遥か遠くの銀河系のどこかの星で ORIS の姉弟たちがまた、新しい音楽を鳴らし始めました。
スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」では地球に飛来した円盤が地球人にむけてメッセージを発します。テナーサックスの MIDI 音源みたいな 5 音階のメロディです。その音階は決して警戒音ではなく、しかし心を開ききっているとも言えない、やさしくありながら心を見透かされているよう な心地になる不思議な音階です。地球の空気に乗って僕らに届いたその音色とメロディは、もしかして他の星の空気の上ではまた別の鳴り方をする のかもしれないなんて、想像を巡らせて。
ORIS